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ショパン/幻想曲ヘ短調作品49


ショパン/幻想曲ヘ短調作品49

ショパンの曲には どんな小さな プレリュード マズルカ ワルツにしても 必ず「起承転結」がある。1曲を聴いていると 終わりには何か余韻が残る・・・
私の音楽友人が この曲をはじめて聴いたとき これは「音楽のドラマ」と感動の涙をしていた。

ショパンは「リアリスト」であるがゆえに ファンタジーを的確に描くことができた。若干20歳の ピアノ協奏曲2曲で
祖国と訣別し ピアノの創作の世界で生きてゆく。数々の出逢い・・・ フランスの社交界に颯爽とデビューした。
決して祖国ポーランドを忘れる事はなかった。円熟期に、このファンタジーができあがる。
ノアン島での ジョルジュ・サンドとの暮らしや その家族の事などで いい環境ではなかったようだが
「ドラマ性」は、現実の生活で充分得ていたとも思える。

ショパンのファンタジーは唯一この音楽。
4分の4 2分の2 からなる。中間部を呈した 壮大な物語と言えるのでは。

バラードは 詩人の叙事詩からヒントを得ているが。
このファンタジーは 私が思うに「ショパン自身の人生」が音楽になったとみている・・・

もちろん マズルカ作品59 36番 イ短調 37番 変イ長調 38番 嬰ヘ短調
バラード4番 幻想ポロネーズ 舟歌 ピアノソナタ3番 チェロソナタ 等の傑作が生み出されているけれども。

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まず 序奏から 「雪の降る街を」連想させる楽想 行進曲。

49-1

変容 2分の2へ カラーが変わる。最高音Fから 下降する音はドラマティック。その後のアジタートは
低音部が徐々に上昇して迫りくる。a tempo のテーマは、「優しく 柔らかく うたわせること」。

49-3

上昇する跳躍のアルペジオ音型 旋律を得手にしているショパンにとって 重音が主の曲は 新たな境地を築く。
この曲の 強固なバス オクターブは 強弱により 多様に表現される。

中間部のコラール サンドとの別れを描いたという。引き裂かれた ドラクロワのショパン像を思う。
(ノクターン11番ト短調 作品37-1の中間部にも同様の音型がある)

行進曲がノクターンに。無窮動が変化(へんげ)する天才ショパンの面目躍如の表れ。

 

中間部。しかし これが最強音になると 行進曲風になる。

49-7

今度はオクターブを伴い 重く そして壮大に テーマを語る。クライマックスと その前の静けさ。

コーダの前 行進曲から 最後の跳躍。転調し 最強音で のぼりつめる

最高音Fから 一気に半音階で下降する。ここで このドラマは終わったかにみえた・・・

49-12

最低音の後の静けさに感動。Adagio sostenuto.

中間部のノクターン(ロ長調)の回帰が変イ長調で。フォルテッシモの2音を大切に。
アリアのように 囁き 吐息が漏れながら。アルペジオは 柔らかく

分散和音が天にも昇る感じで 上昇するが 緩急自在に集中して。

最後の2音 フォルテッシモは、ファンタジーを断ち切り現実に。

バラード3番を書きあげた後、ショパンはまだ足りない 自分の限界に挑戦していた。その結晶が ファンタジーだった。