ショパン/「24の前奏曲集」第24番ニ短調 カタストロフィ


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ショパン(1810-49)の「24の前奏曲集」作品28(1839)は 鬼才女流作家ジョルジュ・サンドと共にしていたマジョルカ島で作曲。全体的にファンタジーのような雰囲気をたたえている。マジョルカ島は、ファンタジーの世界にいる環境を作り出すにはよかった。ジョルジュ・サンドは、ピアノの手配をし、ショパンに協力した。気候は時に湿潤気味であり、ショパンの健康をむしばんでいった。ジョルジュ・サンドが邪魔になったのではないが、作曲家として時にイメージが涌かない。サンドの戯言が、ショパンの苦しみになった。

「24の練習曲集」作品10&25は、芸術的にも技術的にも最上の金字塔の作品集。練習曲のメカニック的な曲の概念が大きく変わり、多くの作曲家が影響を受けた。「手のねじれた人はこの曲を演奏しない方がよい」とされてきた。リサイタルで、時々「24の練習曲集」は、プログラムに取り上げられている。チクルスとしてはよいのだが、ショパンの作品をじっくりと聴くには、それなりのゆとりが要る。ピアニストも大変。最近「24の前奏曲集」がプログラムにとりあげられることが増えてきた。ショパンは、練習曲が未だ演奏できない人のために、この「24の前奏曲集」を発表したのだ。他に、嬰ハ短調(遺作)などがある。詩的な作品群とされ 技術にフォーカスされないが、実はテクニックを習得できる「メソード」なのである。練習曲集の1曲はレベルが高いが、前奏曲集のある1曲を演奏することは、演奏困難な作品を除き、学習すれば可能である。第4番、第6番、第7番のマズルカ、第9番、第13番、第15番の雨だれ、第20番のコラール《祈り》など。しかし、決して侮る事はできない。低音部のカンタービレや特徴的なリズムは、練習曲集にはないものがある。また、内声のバランスを保つ多声音楽が多い。ショパンは生徒にバッハの平均律クラヴィア曲集(24の前奏曲とフーガ)48曲を「最高にして最上の作品」と称賛しているのだから。単なる練習でなく 音楽性の向上を目指した。

「24の前奏曲集」作品28は、「ピアノソナタ第2番」変ロ短調作品35に関連があるとみるべき。ショパンにとって、ピアノソナタは、鬼門であった。第1番は習作で、出版をきらい死後、欠番の作品4が与えられている。現在、演奏されることはほとんどない。一方で、息のながい音楽語法が使われていることは見逃せない作品である。
以来、ショパンは、ソナタに手をつけてなかった。ピアノ協奏曲2曲と斬新な24の練習曲集を発表したことで呪縛から解かれたものの、飛躍するための決定打がそこにあった。
ショパンは、ソナタ第2番で真面目に取り組んでおり、これが「ピアノソナタ第3番」ロ長調作品58の最大傑作に結びついた。第2番の第1楽章 左手の跳躍、右手の内声のコントロール 第2楽章 連打音 左手のカンタービレ 第3楽章 ソステヌート、コラール 第4楽章 ユニゾンは、「24の前奏曲集」なしには考えられないのである。

なお、24曲は、調号のシャープをひとつずつ増やし 5度圏を巡る。長 短 を網羅、フラットを減らしていく。終止が、関係調の和音が含まれていることから、余韻を残し、あるいは予感を秘めているところに ショパンの天賦の才能が発揮されている。バッハの時代は、まだ旋法の影響が残っていたので 例えとして フラット1つの調号の曲を 調号なしで 臨時記号をつけることがあった。ドミナント、サブドミナントは重視されるべきである。

第24番ニ短調 8分の6 Allegro appassionato  記号こそないが、con fuoco があってもよい感じがする。
構成 A ニ短調(1-18) B イ短調(19-36) C ハ短調(37-50) D ニ短調(51-77)

最後を締めくくる曲。起承転結の頂点をなす。左手のオクターブ5度に及ぶ跳躍に確実な打鍵力を求める。右手の声楽的な、器楽的な感情コントロール。
スケールとアルペジオでの表現力。3度の重音 最高音から叩きつける。9または、7の和音での激しさ。
最後は、デーモニッシュで 下降し D音を3度、「奈落の底」を表現。誰が、この終わりを予想できるのか。天才ショパンならではの劇的な終わりである。

ショパンは、ワルシャワ蜂起(1830年)が失敗したことに怒り、ピアノ芸術に向かい結晶がうまれた。しかし、一番の哀しみは、マリアとの事(1835年)
霊感を得ながら さらに誰もなしえない、美の世界に光を見出した。この作品もそうだろう。それは、恐ろしいくらいに激しく暗いカタストロフィ。

画像は、臨終の床にあったショパンを看取る「ポトツカ夫人」がベッリーニのアリアを歌う。青年の頃から、晩年までショパンとポトツカ夫人は、書簡のやりとりをしている。

左手の音型。「大洋」のごとくうねる。オクターブ5度に亘る跳躍は、手首の柔らかさを要求する。3度、および10度は、よく響くから。
右手の音型、珍しい。ベートーヴェンのような和声構成音を旋律としている。それだけ想いが強いという事。

イ短調は、若干の焦燥感があるが、最低音がそれを支えている。ハ短調に転調。
このあと、A♭→A(♮)で不穏を予感させる。

左手、Gisの 厳しい音に怒りが。右手もその後Gisに。そしてオクターブで強打。最高音から3度の重音のパッセージが降りてくる。
Cisは、Dへの悪魔的な音だ。フォルテッシモに左手のGisがぶつかる。5連音符でエネルギーをためて
FFF Dの短調 7の和音を響かせ 右手のパッセージが最低音に降りてくる。

ヘ音記号 下向きの音を左手で弾くことができるが、右手で奏する事が多い。交叉して弾くこともあるよう。最低音は、3に4を添えて、肘から指に力を集中させる。
連打は、約6秒ほどの間隔。最後の音を鍵盤から離し鐘の響きを聴く。上体を起こし弾き終わり。何かが残る。ショパンの凄さである。

 

プロフィール

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nishikunn
☆PCPAL代表取締役 日本アコーディオン協会理事 FMはしもとパーソナリティー  ピアノテクニシャン  なにわシャンソンコンクール審査員 市ボランティアサークル連絡協議会副会長 TOPページへnishikunnのページ