ベートーヴェンはピアノソナタを32曲残した。ここには 13歳ごろの習作 選帝侯ソナタの3曲は含まれていない。ベートーヴェンの特徴として 32曲のソナタは 時代系列に作曲され 生涯中 多くの割合をしめる。これは ショパンのマズルカにも似ている。19番ト短調 20番ト長調 はソナチネアルバムに収録され親しまれている。
例えば 第1番は作品2 1795年 ベートーヴェン 25歳の作品。モーツァルトの時代には 3楽章形式であったが 4楽章に拡大されている。
私のなかでは ピアノソナタ第7番ニ長調は大学の試験曲で 取り組んだ。その他、第8番「悲愴」14番「月光」17番「テンペスト」第21番「ワルトシュタイン」23番「熱情」第26番「告別」30番 31番 32番など 弾いてみた。好きな作品は「テンペスト」「熱情」31番 32番である。
32番 最後をしめくくるソナタは、1822年 52歳。「第九」「ミサソレムニス」の作曲の時期と同じくする。この後のピアノ作品は「ディアベリ変奏曲」だが ピアノソナタには 戻ってこなかった。
「2楽章のソナタ」に首をかしげるかもしれない。アダージョは スケルツォは メヌエットは・・・
ベートーヴェンが探し続けていたものが 1楽章 フーガを取り入れた楽想だった。(7分)
ベートーヴェンは 「音楽家は神に近い存在。神の声をきき作曲する。」耳は聴こえなくても 写譜するものに
音の表現をひとつひとつ声を出し 的確な指示を出すことが出来た 大作曲家であった。
第1楽章は これまでのものを凝縮したような手法。それぞれの重音をパートに割り振らせば、弦楽四重奏で演奏できるかもしれない。バッハの晩年の傑作「音楽の捧げもの」は、楽器指定をせず、表現できるようにとしたのだが それを考えたのでは。「ピアノソナタ」を超える弦楽四重奏のイメージがする。ちなみに ベートーヴェンの好んだ デミニッシュの和音が使われている。古めかしい形式を重んじながら 現代音楽の一途をたどるベートーヴェンである。
https://youtu.be/M2beoK2wSng
第2楽章は変奏曲(長調の8小節と短調の8小節が主題)バッハのゴールドベルク変奏曲も主題が前半と後半に分かれている。素朴な主題を展開してゆく、マイナーの部分は 寂しさもある。
出版社は「ベートーヴェンは気が狂ったような2楽章を書いた ジャズのスイングのような楽想は何だ」「滑稽で こんな曲を誰が買うのかね」と批判した。それが この部分。
「嘆きの歌」の部分、「深い森」に籠ってしまう。ベートーヴェンの哀しみというのは 人生の重み 全人類の重み「とても哀しい一節」。人生は美しい。(espressivo の表記から)
乗り越え突き進むベートーヴェン。高音部のささやきのような音型。最初の主題が回帰され 天国に昇り、降り立つような音型が印象的。「ピアノ」という楽器を超えた 弦楽的な響きのファンタジーと私は思うのである。
この後に何か残る。いや 残さない。そう思える。ベートーヴェンは まさしく 32曲のピアノソナタで筆をおいた・・・