「日本音楽学会支部例会」の事181013.
2018年10月13日(土)14:00~17:00(終了)会場:大阪市立大学梅田サテライト
修士論文発表
1.西澤忠志(立命館大学大学院)
日本における「自律した西洋音楽」観の形成――明治20年代の演奏批評の展開から
本発表は、明治20年代の演奏批評に着目することにより、日本において西洋音楽を自律したものと考える音楽観が形成された過程を明らかにするものである。
日本において、公益に資するものとしてではなく自律した芸術としての西洋音楽という理解が定着した時期について、先行研究では明治後半であると指摘されている。しかし、こうした理解がどの様な過程や背景によって形成されたかについては、これまでの先行研究では取り扱われなかった。そこで、本発表では当時の音楽観が現れた史料として演奏批評を取り上げ、その中でも最初期の批評に位置づけられる明治20年代の演奏批評に着目する。
これにより、それまでの徳育や民俗改良への効果の有無による音楽に対する評価とは異なった、音の美しさや演奏における表現の有無など音楽の自律性を前提とした評価基準によって演奏を批評し始めた過程と、思想的あるいは社会的背景を明らかにする。
2.當舎加那絵(ボローニャ大学大学院)
ショパンが使用した楽器についての一考察ーーブーフホルツ・ピアノとプレイエルのユニコード・ピアノを中心に
本研究はショパンが使用した楽器について調査を行い、ショパンがどのような音色を求めていたのかを考察することを目的とする。
はじめに、ショパンがポーランドで使用していた楽器「ブーフホルツ・ピアノ」について明らかにする。ブーフホルツは当時のワルシャワでは最も有名なピアノメーカーであった。この楽器の特徴からショパンの音楽的好みを検討する。
次にショパンのパリでの最初の公開演奏会に着目する。この演奏会が行われたサル・プレイエルについて、また、演奏された「6台のピアノのための《序曲と行進曲付大ポロネーズ》」という演目について様々な視点から考察を試みる。この演目には縦型、スクエア、そしてユニコード・ピアノという珍しい楽器が使用されていた。
研究発表
3.橋本絹代(やわらかなバッハの会)
やわらかなバッハ
バッハ平均律クラヴィーア曲集(以下、WTC)は鍵盤学習者にとって重要な作品であるが、演奏はかなり難しく、WTCを知る前にレッスンを止めてしまう生徒も多い。WTCを広める方法の一つとしてWTCの成立過程から導き出した演奏法を2009年に『やわらかなバッハ』として上梓した。同時にWTC全48曲を編曲や省略なしで、ハ長調もしくはイ短調に移調された楽譜を世界で初めて出版した。
研究から実践への試みとして現在「やわらかなバッハの会」を主宰し、バッハ輪奏会、バッハ輪読会、バッハ対話集会などのバッハ啓蒙活動を実施している。またバッハの誕生日と命日にプロアマ問わず、ステージと客席との距離を縮め、誰でも参加できるバッハコンサートを主催している。本発表は実践例を示しながらWTCの固定観念にとらわれない演奏法の可能性について検討する。
3本たて それぞれの発表者の分野により 音楽との関わりを認識した。《コメント》
1 日本における「自律した西洋音楽」観の形成――明治20年代の演奏批評の展開から
西澤氏
西洋音楽が日本に入ってきたのは 江戸時代終りごろ 日本にピアノがもたらされる。エジソンの蓄音器発明によるSPレコード。
西洋音楽が記録として日本に入ってくる。と同時に演奏が試みられる。例えば「第九」は 1918年6月1日徳島県で日本初初演された。
教育としても 尋常小学校唱歌などの教材に賛美歌や外国の歌が収録された。ここで大切なのは 西澤さんが示した日本国内での音楽評論には文学が大きく関わっており 出版が大きくものをいった。など 内容が新鮮かつ 膨大な情報量でした。
2 ショパンが使用した楽器についての一考察ーーブーフホルツ・ピアノとプレイエルのユニコード・ピアノを中心に
當舎氏 スライドを交えながら発表。
情報量をしぼり込み、起承転結を以てわかりやすく解説。當舎さんは、海外でのフォルテピアノを探し求め調査された。調査結果を通し、現存する楽器の少ないことが判明。さらに研究を続けられるとの事。ショパンが弾いたとされるユニコードピアノの存在。ピリオド楽器の意義。當舎さんの論文は2016年であり すでにピリオド楽器の提起をされていたから「先見の明」と言ってもよいのではなかろうか。現在、ショパンコンクールに先立ち「時代ピアノ」が注目されているのだ。ピアノの機能について(ペダルを含む)楽器の変遷を紐解く重要なカギとなる。1830年前後のピアノの研究は貴重。研究結果を提起し、音楽学の視点から問題を問う。
3 やわらかなバッハ イコール式音楽システム
橋本氏 スライドを交えながら発表。
女史は 春秋社から バッハに関する著本が出版されている。平均律クラヴィア曲集作品をすべてハ長に移調した楽譜がある。WTCは、24の調性で書かれているが 嬰ハ長調の曲は 実際はハ長調でまず書かれ後に移調されたものである。また、チェンバロのための協奏曲などは 音域の問題から 演奏するまえに 移調され記譜された。同じ曲だが 調が違っていて別作品として出版されている事は興味深い。また、ポリフォニーのバッハの作品は1声部をまず弾くことからはじめ、他の声部と協奏することが大切である。カノンやフーガから バッハの音楽の素晴らしさを体感してほしい。興味を持ったのは旋法の話。旋法と記譜法は関係がある。
学会は、論文・研究発表に質疑応答やコメントをする場で緊張感があり 集中力を要する。
終了後、(第2ラウンドではありませぬ。)懇親会でした。ひととなりを知ると 何を言われたいのかがわかる。この場で出逢うのには 意味がある。
交流する事で 学会に関わっている意味を共感できた。いろいろお話を聞く。聞いたことのない用語など。専門分野の方には 耳を傾けよう。
また、こちらの意見を述べる時大切なのは なぜその意見を言うのかといった背景。伝わりやすくなると確信している。