バッハ/平均律クラヴィーア曲集 第2巻 22番 変ロ短調 BWV 891
1742年ごろの作品とされている。バッハは 1685年3月21日~1750年7月28日(ユリウス暦)
50歳代の作品となる。壮年期に教会のミサのために 毎月のごとくカンタータを作曲し聖歌隊を指揮しオルガン曲の作曲にいそしんでいた頃とは違う。
トーマス教会のオルガニストに就任し 演奏家として身を立てていた。たくさん子どもがいたので その子を音楽家に引きあわせたり
親としてのつとめを果たしている。子孫に手ほどきをし 遺すことを考えはじめていたのだろう。
クラヴィア練習曲集(第1巻 パルティータ BWV825‐830 第2巻 フランス風序曲 BWV831 · イタリア協奏曲 BWV971
第3巻 前奏曲とフーガ 変ホ長調『聖アン』 BWV552 · 21のコラール前奏曲 BWV669‐689 · 4つのデュエット BWV802‐805 第4巻 ゴールドベルク変奏曲)。
練習曲として作曲しているうちに 芸術的にも高い水準の曲ができあがったのだ。
私は 2巻が好きだ。まず 作風に3拍子系が割に多く登場する。プレリュードに田園風(パストラール)がある。
フーガは3声、4声でできている。3拍子系は ジーグと捉える事もできる。リズミカルな動機を対位法を駆使して気品溢れる作品となった。
さて、第2巻22番 変ロ短調BWV891 プレリュードは3声 切ない感じの ロ短調 2分の2に 早い走句が流れ出る。
Bb Bb Bb AbBb C C C BbA Bb パッセージは滑らかに対し 対旋律(内声)は 動きがなく
嘆きのようにも思える。それから Bb A や D Db や G Gb など同時打鍵でぶつかる音は
悲壮感が漂う。半音階の上昇は キリストの昇天をあらわす。
以下 参考音源は 1、チェンバロ 2、ピアノ 3、オーボエ&フルート&ファゴットなど(雰囲気として「音楽の捧げもの」に近い)
平均律クラヴィーア曲集 第2巻 BWV 870-893/ヘンレ社/原典版(2007年改訂版/シフ アンドラーシュによる運指付き)が2009年に出版されたことは大きい。
バッハ解釈者として高い評価を得るシフ。
コーダの前に一旦静まり返る。次に用意するのは 早い走句の3度 6度のカノンで 天上に昇りつめるような音型は 美しい。
コーダは 何か言いたそうだが 次のフーガへ導いている。
フーガ 4声 堂々たる構成で クラヴィア曲の中でも傑作とされている。世俗的でなく 宗教感があり 壮大である。
その主題は力強く フーガを推進している。それぞれの手は ふたつのコーラスを奏で なおかつ もうひとつの手の 2声も聴こえるように
弾かれなくてはならない。ピアノの場合、タッチで音楽をコントロールする。
特に 右手 左手 それぞれに2声のかけあいがあり重音もある。
半音階で上昇 あるいは下降しながら 和声を整えている。また、反行形があり フーガの技法に
匹敵するような高度な音楽性をも持ち合わせている。
この曲をオルガンで演奏すると 効果的だろうと思う。(後世の作曲家がオルガン編曲している)
コーダは 反行型の2重フーガが 近づいてくる。このために、最初の仕掛けが用意されていて構造的。
これぞ バッハの崇高な精神。