Tag: オルガン

オルガンビルダー辻宏氏


オルガンビルダー辻宏氏

オルガン奏者としての技術を持ちながら ビルダーとして 世界のオルガンを修復。
イタリアピストイア市のオルガン また スペインサラマンカ大聖堂のオルガンを修復したことで名が知られる。

「辻オルガン建造所」を神奈川県に設立、また岐阜県白川町に移転し「辻オルガン」とする。
80台にのぼるオルガンを製作した。日本のオルガン製作界に大きな影響を与えた。

現在、日本製のオルガンは数少ない。多くは、欧米などの会社のオルガンを購入し組立てメンテナンスを行っている。
複雑な機能から、外国の技術者に依頼しているのも現状である。また、1ホールに1オルガンの構想は理想的であり
あのカラヤンが、サントリーホール建設時に「オルガンがなかったらどうしましょう」とアドバイスした。

オルガンは「ビルダー製作家」建造の技術 木工の技術 鉄鋼の技術 美術としての壮観を考慮され 総合的な技術が
芸術に結集していることから 科学と文化 過去と未来をつなげる歴史的一大プロジェクトに間違いない。
数百年使用されるオルガンは珍しくないから。

辻宏氏の本を読んだ。製作したオルガンは80以上。

こちらは、岐阜県白川町民会館グロリアホール。ここでは 毎年夏、オルガンアカデミーが行われている。

白亜の堂々たるボディ。音を聴きたいですね。

そして、岐阜市 サラマンカホール大ホール(収容700)


ブラームス 11のコラール前奏曲Op.122「おお世界よ、われ汝より去らざるをえず」


Brahms ブラームス O Welt, ich muss dich lassen 11のコラール前奏曲 Op. 122
「おお世よ、われ汝より去らざるをえず」から第1曲 Mein Jesu, der du mich 「イエスよ、われを導きたまえ」

ブラームスは、少ないがオルガン曲を残している。初期の時代と、晩年にあたる。
初期は、母が他界した時。その頃は、ドイツレクイエムも作曲している。そして1896年、クララが亡くなった。知らせが遅れ、かけつけたが葬儀の後だった。「この世ではすべてが虚しい。私が本当に一番大切な人を今日、葬ってしまったのだ」大きな衝撃を受けた。ブラームスの「秋のソナタ」、ブラームスに残されたのは1年だった。
ブラームスは 第11曲「おお世界よ、われ汝より去らざるをえず」で筆をおいた。

コラール前奏曲とは、バッハの時代、新教プロテスタント=ルター派教会の賛美歌の前に導入する曲。ルターは、ラテン語でなくドイツ語を用いるべきだと主張する。賛美歌が必要なため、バッハが支えとなり宗教曲が生み出された。それから100年経ちバッハの音楽は、メンデルスゾーンによって復活し、発掘され研究される。コラール前奏曲は、演奏会用に変わっていったと考えられる。

ブラームスは、コラール前奏曲を何のために作曲したのか。それは、クララへの追憶と自分のために。敬愛するバッハに尊厳をいだきながら、オルガンという楽器に託した。

全11曲だが、同じ曲名のものが2曲づつある。これは、バッハ的に考えてみる。「音楽の捧げもの」や「フーガの技法」においてコントラブクスト1、2など変奏的に示している事から「鏡像」とするのか、それとも「続編」としてみるのか 興味深い解釈になる。

よく聴いてみよう。

第1番 Mein Jesu, der du mich/イエスよ、われを導きたまえ
第2番 Herzliebster Jesu/最愛のイエスよ
第3番 O Welt, ich muss dich lassen/おお世界よ、われ汝より去らざるをえず(1)
第4番 Herzlich tut mich erfreuen/心よりの切なる喜び
第5番 Schmucke dich, o liebe Seele/ああ愛する魂よ。汝を飾れ
第6番 O wie selig seid ihr doch/おお、あなたはなんと至福なのか
第7番 O Gott, du frommer Gott/おお神よ、慈悲深い神よ
第8番 Es ist ein Ros’ entsprungen/一輪の薔薇が咲いて
第9番 Herzlich tut mich verlangen/わが心の切なる願い(1)
第10番 Herzlich tut mich verlangen/わが心の切なる願い(2)
第11番 O Welt, ich muss dich lassen/おお世界よ、われ汝より去らざるをえず(2)

私は、特に1曲目が ブラームスの本意を示していると思う。

第1曲 Mein Jesu, der du mich 「イエスよ、われを導きたまえ」
ブラームスの円熟期から晩年に「諦観」の技法が。つまり、動機を丹念に織りなしてゆく、古典的な手法。地味であるが 情緒が深く刻まれ 聴く人にしみじみと感動を抱かせる。そこに無駄はほとんどなく曲のどこかの素材の音である。また、カノンのように追走し、変容して和声を入念に仕上げている。

コーダ 半音階的に動機を丹念に織りなしていく 16分音符の走句は途切れる事なく 曲全体を纏っている。


樅の木とオルガン


樅の木とオルガン

モミの木というと クリスマスを思い起こす。また 谷山浩子の「もみの木」の歌にあるように 大自然の力を思う。ラテン語 ABIES 葉を落とさない樹で 脂は薬に利用され 生命力の強い木である。冬には モミの木片を暖炉にくべ、温かく過ごす事ができる。

日本は国土の68.2%を森林が占める山林国で フィンランドに次 世界第2位で 3位はスウェーデンである。自給率は30%で 近年上昇している。植樹も積極的に行っているが すぐに効果が出てこない。何しろ 20年~60年という歳月がかかるのだから。60年というのは ひとえに3代を指す。桜の木なども 20年が一人前になる節目をいう。「遷宮」も20年に一度である。

木材といえば 法隆寺 正倉院である。例えば 法隆寺の心柱は 2000年以上の 一番古い木を取り寄せた。古ければ古いほど 経時変化が少なく安定している。赤い部分は腐りにくく白い部分は不安定である。神宮(伊勢)も木をとっている。遷宮の際に伐採される300年経つ木曽のヒノキは10,000本。昔から木曽では むやみに伐採したりすると「蛇抜け」がおこり、大蛇が土砂災害を起こすといわれている。「白い雨」が降ると、土砂崩れが起きる・・・

オルガンについて ルーツは紀元前の「笙」にはじまる。西洋では最古は1400年代から。バロック時代からは オルガン作品が作曲され、19世紀には「オルガン交響曲」が作曲されたりし、現在も主役として使われている。ひとすじに「オルガン」というが種類がある。パイプオルガンとリードオルガンは 似ているようで全く違う。アタックから減衰まで音量が一定なのがパイプオルガン。一方、エアの送り具合によってビブラートなどニュアンスがつけられるのがリードオルガンで アコーディオンに近い。アコーディオンやバンドネオンは、蛇腹で空気を送り音のたちあげから減衰までコントロールできる「心を震わせる楽器」である。私は、断定的な音色を発声できるパイプオルガンも素敵だと思う。

日本で戦後初 国産のオルガン製作家 辻宏さんは シュバイツァーのバッハを聴いて オルガンの道を志し、東京芸術大学にすすんだ。その後、教師をつとめるかたわら オルガン製作にも感心を持ち、製作家としての道を歩んだ。辻さんは オルガンに最適な木材を求めて神奈川県から岐阜県白川町に移住している。ある時、モミの木を切り倒すことになった。お神酒をかけ祈りをささげてから伐採するのだが、突然竜巻のような「あおり風」が吹き跳ね飛ばされた。ー切り倒されたその木ー命が経たれた瞬間、瑞々しい樹液が吹き出ていた。木の痛み・・・これをみた辻さんはむせび泣いた。300年も育てられた木を切り倒したのだから。「心に誓って」オルガンを制作できるように力を貸してほしいとモミの木にお願いをした。そして、この一本から3台のオルガンができ、ひとつも無駄のない木材の使われ方がされたという。

国内最大のオルガンビルダー辻宏さんは、精力的にオルガン製作に勤しみ、生涯に82台のオルガンを製作した。(2005年12月永眠)奥さんの紀子さんは 30年ぶり(2008年)に モミの木の「木の株」に逢いにいった。見つけた途端 杖をついていた紀子さんは 夢中でかけあがった。その切り株は、小さな虫が取り巻き芽が生えていた。幹や枝はなくなったけど 空の方を見上げている・・・宏さんにも見せたかったという。(2016年6月永眠)

紀子さんはいいました。

「この天地は滅び去ります。しかし、わたしのことばは 決して滅びることがありません。」
~マタイ24章35節~

岐阜県立美術館にある「第37号」

バッハ:18のコラール前奏曲集より、第三番 コラール「バビロン川のほとりに」BWV653