ショパン「幻想ポロネーズ」(ポロネーズ第7番)作品61 晩年の大作 ショパン自身が、作曲途中、形式として自分でもわからない作品だった事が書簡からもうかがえる。この前後 ピアノソナタ第3番 舟歌 チェロソナタ 小品(ノクターン2曲 ワルツ第6番・7番 マズルカ)が作曲されている。ピアノでしかできない表現を究極に高めた芸術がうみだされた。
ショパンは「リアリスト」であった。ポロネーズを作曲したのは 祖国への敬意のあらわれ。7歳で作曲された「ポロネーズ」は、ポーランドの「第二の国歌」と言われた。しかし、ロシアに占領され ポーランドが滅び 自由が亡くなったショパンに作曲家の道はとざされ 父の旧故郷のフランスへ旅立ったのは想像できる。ただ、ショパンの周囲の温かい人間関係は生涯続いた。友人の支えもあり、ポーランドの再興に力を注いだ。現実を見据えていたからこそ 生涯を貫き ピアニズムな作品が描かれたのである。
「ファンタジー」とは、一般的に私たちは一日の24時間の3分の1程度は眠っていて、生きている実感がない。が、夢をみることはある。起きている時(自分のために生きている時間)は「人のために生きている時間」である。作曲というのは 人生がかかっている。ピアノという楽器を知り尽くしたショパンの音の世界がここにあり、円熟期を超えたショパンの彼方がみえてくる・・・ピアノソナタ第3番では 憧れの表現で 技巧的にも凝縮した大作を完成したが、チェロソナタがなかなか完成できないことを嘆いていた。一方、生みだされた「幻想ポロネーズ」は 斬新さが際立っている。ポロネーズのリズムこそあるが 夜想曲のような雰囲気 バラードのような抒情性 即興曲のような自由さがあらわれ ファンタジーとなった。この作品で「ポロネーズを終わる」ということは予感していたのか。ショパン自身は事への訣別もあったかと思う。ジョルジュサンドとの別れがあるんだけども。
まず、さりげなく 和音と大胆なアルペジオから開始される。「舟歌」の嬰ヘ長調(変ト長調 調号は♭だが 響きは似ている)新たな調性の響きとリズムを築いた。パッセージや装飾音のなかで転調する事は「スケルツォ4番」あたりから「舟歌」でも使っているが、ショパンの巧妙なピアニズムである。嬰ト短調 変イ長調(主音は同じ)変ロ長調 ロ短調 ロ長調 など転ずる変化がファンタジーにつながっている。
序が終わり ポロネーズのリズムが導き テーマがはじまる。
【旋律1】である。霧の中にいるような内声、左手の伴奏型がアルペジオになり展開、美しいパッセージがあらわれ それも消えうせる。
【旋律2】が悲しみを湛えている。これほど憂えのあるメロディーはあっただろうか。
重苦しい場面を過ぎて、柔和な場面へ。バスが【旋律3】を奏する。トリル・・・二重トリル 舟歌のよう・・・
回帰し、再現部 ロ長調の和音で二長調のアルペジオ イ長調の和音でハ長調のアルペジオで変容、大胆に明るい響き。
しかし突然、ヘ短調の【旋律2】が出てくる。この美しく儚いメロディーが霧の中に消えうせ、闇に隠れるが如くファンタジーに。
うねる波のなかで、バスが厳しく不協和音的に響く。クライマックスに向け ユニゾンの上行の音が突然終止。
弱音志向であるが、唯一の強打・連打される場面【旋律1】が出てくる。
右手のオクターブ、左手の激しいオクターブ伴奏型が盛り上げていく。
傷みがあるが、ここで精神的に乗り越え 最後に向かって推し進めなければならない。
変イ長調、FFの場面。【旋律3’】リズムがスキップだが、左手バスにオクターブであらわれ、右手はクライマックスへの準備をはかる。
そして、右手がこのリズムに取り付き、クライマックスは変イ長調で【旋律3’】を音階的なオクターブで奏する。
スキップのリズムは余韻のように残り、終焉に突入する。トリルが出てファンタジーに消えてゆき、一撃「鐘の音」で終わる。
ベートーヴェンソナタ第31番変イ長調 第4楽章「嘆きの歌」とフーガ コーダ との関連性。変イ短調の和声があり フーガで長調に転ずるが 不安定。
コーダで長調へ転じ、最後へ向かってアルペジオの力強い律動、上昇型で天国へ昇り詰めるような最後のがっしりとした和音で終止する・・・
Yuja Wang – Chopin – Polonaise Fantaisie Op. 61
ショパンの署名
最初の一節 アルペジオが低音部から高音までわたり 響きを漫然と受け止める。
序章から主題へ【旋律1】だが 全体の雰囲気を醸し出している。
ポロネーズのリズムが「隠し味」のように出ている。
左手がアルペジオの伴奏型に。流れをつくっている。
左手も右手も情緒的に激しい場面。2段目3小節 悲壮感がありとても重苦しい。
苦悩から解放された・・・【ロ短調からロ長調へ転調】ファンタジーのはじまり。バスのアルペジオが【旋律3】を奏す。後にポロネーズのリズム(附点のリズム)になり、【旋律3’】として登場する。クライマックスでは、右手、左手がオクターブでつながり最期を飾る。
ロ長調の夢見るような舟歌風のファンタジーが不協和音にて突然終止。『lento』 より【旋律2】
ショパンの音楽の中でも最も憂えるメロディー 半音階型であり苦悶している様子。美しくも儚く切ない。伴奏型は舟歌風で浮遊感がある。
トリルの重音が右手・左手 霧の中にいるような雰囲気 小節線こそあるが 境目がなく自由にファンタジーに富んでいる。左手のバスの【旋律3】が(2度目)あらわれ 再現部へ橋渡しをする。
再現部 ロ長調和音から二長調アルペジオ イ長調和音からハ長調の大胆なアルペジオ ショパンは黒鍵の入った調性を好むだけにハ長調は太陽の明るい日差しのようだ。
【旋律2】悲愴感漂う旋律が再びあらわれる。ショパンの真実の吐露を見逃してはならない。
ファンタジーの中にこもってゆく。ここで バスの附点のリズムが登場している。1段目 3小節目の不思議な響きは 不協和音的で、激しさとファンタジーが入り混じる。現実とファンタジーの境目にいる。
弱音志向だが 唯一 強打される場面。左手の徹底したオクターブに「傷み」が・・・力強い場面。
精神的に乗り越え 最後に向かって弾きこなさなければならない。
いよいよ登場【旋律3’】スキップの左手の附点リズムが力強い。ポロネーズ、祖国への敬愛を謳歌する。ショパンが境地に辿りついた。
左手のバスが附点のリズムで、右手に取り付き【旋律3’】が両手オクターブで飾られる最後・・・
トリルが終焉の直前まで繰り返される。最後の一撃は 決然と終わる変イ長調の和音。